豪雪に埋もれながら金沢ホテル戦争の行方を思う - 小西不動産鑑定所/小西均
個々人にとって良いことも、全員が同じことをすると「合成の誤謬」により悪い結果を生むことが往々にしてあります。私の住んでいる金沢も例にもれず、東京資本が競って土地を買いホテルを建てています。
昨年夏から数えると、今後建つ予定のホテルは20数棟、既存の客室数1万室に対し、約2,500室も増えます。京都や福岡ならわかりますが、金沢市は人口45万人の「地方都市」なのです。地方の一等地の地価は、地元投資家がゼッタイ出せない金額を東京ホテル資本が提示することで、大きな乖離が生まれています。今や、ホテル開発は証券化等によりファンドに売却することが前提になっていますので、それが乖離の背景にあります。ファンドですと、投資信託または匿名組合型法人による倒産隔離が可能で、税金も安いのです。しかし、高い土地取得価格を反映したりっぱなホテルの完成後は、マスターリース契約の家賃は結構高く、20年以上の長期契約でもあるので、安定してホテル運営ができるのか、勝手な撤退はないのか…など疑問がわいてきます。
北陸信越運輸局の統計によると、石川県内では2016年、宿泊者総数が前年比▲0.4%の870万人であった一方、外国人の宿泊者総数は+20.5%の62万人に伸びました。しかし、インバウンドの宿泊者数は全体の1割にも満たないようで、それが2割になったところで…。
実際、日本政策投資銀行の昨年12月の調査レポートでは、「2021年には金沢市内の年間宿泊客が現状より2割超多い346万人に増える一方、客室稼働率は6ポイント低下し69%に落ち込む。」との見通しを示しました。
ファンドが依頼した鑑定評価書を見ると、自社の投資だけは客室稼働率を70%台後半で見込み、収益価格を計算しているものがあります。金沢でのホテル参入が1社だけならそれは正しいでしょう。でも、前記レポートの「69%」に比べ、最大10%近くの「見込み違い」が生じていることになります。
地方でのホテル開発は、事業性云々よりも、東京での金余りと投資先不足によってもたらされた側面があるようにも思えます。政策投資銀行のレポートでは、「街並みとの調和など、地域のニーズに合わせた競争が必要」と結んでいます。個々の会社にとって良いことでも全員が同じことをすると「調和」を乱し、地域のニーズからかけ離れてしまいます。今日もボタ雪が舞い落ちる金沢の空を見上げ、膝まで積もった雪をすかしながら、わが街のホテル戦争の行方に思いを馳せました。
小西不動産鑑定所
不動産鑑定士 小西 均
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)