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既視感のある水害光景 - 鑑定法人エイ・スクエア/畠山文三

八月の声を聞こうというのに雨が降りやまない。七月初め、熊本県球磨村の特別養護老人ホームの空撮映像は既視感のあるものだった。川べりの介護施設が河川の氾濫で浸水し、避難できなかった高齢入居者の悲劇が毎年のごとく伝えられている。

 

既視感のある水害光景

八代河川国道工事事務所の「球磨川水系洪水浸水想定区域図」を見ると、その老人ホームのある場所は「浸水時5m~10m未満」の想定浸水区域となっている。何ゆえそのような危険な場所に老人ホームを建てたのか?とは誰もが思うこと。しかし、よく考えれば、そのような場所は都会のゼロメートル地帯は言うに及ばず、全国至る所にある。

 

都市計画で住宅の立地を促している「居住誘導地域」の9割近くは「浸水想定区域」と重なっており、日本の全人口の3割近くは浸水想定区域に住んでいるとの報道もあった。しかし、こうした特養や老健施設など高齢者が居住し、夜間の避難では人手が絶対的に不足する施設については、浸水想定深度とリンクさせた都市計画での立地規制や建築規制を検討すべきであろう。

 

都市部と比べ、過疎地の町村などは消防や警察力が手薄で、イザという時の救護対応力は都市部とは大きな差がある。そうしたことも考慮すべきだ。

 

介護施設の「立地」について、「浸水想定深度5m~10m」の場所でも可能というのは論外である。今般の球磨村の特養施設は、事前に1階の寝たきりの高齢者を上層階へ避難させることができていれば14名もの犠牲は出なかったであろう。しかし、エレベーターが設置されていない建物のため、夜間、限られた職員や少数の応援者だけでは階段を使って2階へ避難させるのは無理だったようだ。

 

2階建といえどもこうした施設ではエレベーター設置は必要であり、また、そもそも1階に居室を設けた設計そのものが不適切で、建築規制にて否認できるような法律・条例が整備されていれば…と思う。

 

高齢化社会が急速に進行しているため、地方都市へ行くと築浅の比較的大型の建物というと介護関係の施設が目立つ。この種施設は、都市部では中高層の施設が多いが、地方では地価が安いため、敷地が広くとれ、建築単価も安い平家建や2階建の建物が多くなる。

 

同じように避難時に介助が必要な入院患者を抱える病院は、地方でも中高層の建物が一般的であるのに比べ、水害リスク面では大きな差が生じている。

 

介護施設については、入居希望者自身が避難の容易さに着目した選択眼を磨くことも大事だが、この時期繰り返される浸水悲劇を繰り返さないためには、立地面と建築面での規制を強化していくことが必要だ。

 

鑑定法人エイ・スクエア

不動産鑑定士 畠山文三

株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)


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